英語の授業でどのようなアクティビティを、どう組み込んでいくのか。英語教師にとって一番楽しいところであり、一番難しいところではないでしょうか？

苦労してルールを考えたゲームが実施してみると、思ったほど生徒の反応が良くない。適当に準備したアクティビティが実施すると予想外に生徒が生き生きし、英語の発話量も多くなった。こんな経験は多くの先生方がしているのではないかと思います。

私の結論としてはアクティビティを組み込む上で考慮すべきは次の３点だと考えています。

どんな活動が生徒にとって楽しく、生き生きする活動なのか。私なりに英語教育日本一と言われるさいたま市での経験も合わせて、考えてみました。私の経歴も関わってきますので、長文となりますがお付き合いいただけると幸いです。

中高時代、私は明確に行きたい大学があったこともあり、自分でもよく勉強した方だと思っています。特に英語は勉強するだけ成果が得られやすい教科だと感じていたので、英単語、イディオムの暗記、文法問題、英文読解等繰り返し行いました。結果、英語は一番の得意教科となり、入試でも高得点が取れる教科となりました。

そして大学に入学し、卒業しました。就職は証券会社で、国を超えた取引もありますから、英語が使えるかどうかは非常に重要でした。そして、私は自分が英語を全く使えないことに気づきました。「読み・書き」であればなんとか対応できるものの、「聞く・話す」ことはほぼできず、電話を取るときに「海外からでありませんように」といつも願っていたほどです。「あんなに英語を勉強したのに、なんでこんなに使えないんだろう。」この感覚が私の英語教師としての考え方に大きく影響することになります。

結局、証券会社は２年で辞めました。在職中も辞めるのであれば、次の仕事を何にするかは決めていました。教師です。教員免許を持っていなかったので、教科も自由に決めることができました笑　悩んだ末、英語にしました。どうしたら英語を使えるようになるのか、その答えを自分自身も探求したいと思ったことも大きな理由です。

塾で働きながら、大学に入り直して教員免許の取得を目指しました、それと並行してどうやったら英語が使えるようになるのかを、色々調べて実践してみました。その結果、たどり着いたのは音読です。難しいものではありません。中学レベルの英文を何度も何度もバリエーションを変えながら何度も読みます。すると数ヶ月で急に英語が聞けるようになりました。そしてその英文の表現、あるいは少し応用した表現ならスラスラと言えるようになっていることにも気づきました。つまり私には「聞く・話す」ための英語のインプット量が圧倒的に不足していたのです。今になって思うと私が会社員時代、英語が使えなかった理由はこれに尽きます。

採用試験に合格し、東京都の教員となりました。足立区の公立中です。自分自身の経験から「英語のインプット量」を増やすことを目指しましたが、中学校の授業ではこれが難しいことにすぐに気づきました。時間がないのです。文法も教えなければいけないし、単語も教えなければいけない、本文の理解の時間も必要ですから、インプットの時間、つまり音読はどうしても後回しになってしまいました。苦肉の策として、時間外でシャドウィングや暗唱ができるようになった生徒を評価し、記録していく活動をしていましたが、全ての生徒に実施できていない点が非常にもどかしかったです。

一方、授業で実施したアクティビティは生徒から好評で、私もやりがいを感じていました。生徒のモチベーションを高く保つという意味でも楽しいアクテビティは大変効果的でしたので、その準備に多くの時間を割きました。ただ同時に、こうも感じていました。

少し釈然としない思いを持ちながら、それでもアクティビティと文法の導入の準備にはその後も多くの時間を費やすことになります。

4年後、東京都の教員を退職しました。採用試験を受け直し、さいたま市の教員となりました。理由はさいたま市が英語教育で面白いことをやっていると知ったからです。東京の教員時代もさいたま市に在住していた私は、さいたま市の教員になることを決めました。

さいたま市の教員になって、これまでの私の経験の点と点が線となって繋がっていく感覚がありました。さいたま市の英語教育は当時の細田教育長が推し進めたもので、実際に英検３級以上の英語力がある中３生徒の割合が2018年度の調査から５回連続（2024年現在）で全国１位となっています。

まず、さいたま市では英語のことを「グローバル・スタディ」と呼んでいます。そして面白いのは、単元の最後にパフォーマンステストが必ずあり、毎授業それに向けて少しずつ練習していくというカリキュラム設定です。パフォーマンステストはスピーチのような「発表」はもちろん、ミーティングやディベートなど「やり取り」に関するものまであります。さいたま市の教員になったばかりの私はそれをどうテストとして評価するのか、そもそも英語でディベートなんて中３にできるのか非常に懐疑的でした。

結論としては、中３でディベートは十分できました。特定の優秀な生徒だけでなく、多くの生徒が積極的にディベートに参加することができています。

ただ、これには少し仕掛けがあります。ディベートを例にとると、全く何もない状態からディベートを開始するわけではなく、モデルとなるディベートの型があります。相手の意見に対して、発言を繰り返す・リスペクトした発言をする・コメントする・質問するといったものです。私の場合はこれらのモデルをスクリーンに大写しにしておいて、それを参照しながら練習するということを繰り返しました。すると、生徒は適応し、いつの間にかディベートっぽいやりとりが展開されることとなります。毎授業やっていると、英語を道具として使うことに抵抗を感じる生徒はほぼいません。

素晴らしいのはここでは意味のあるコミュニケーションが展開されているということです。まさに当時教育長の細田氏が言われるように「相手の言いたいことを知りたい、そして自分の考えや思いを伝えたいという意欲のあるコミュニケーション」なのです。そして私は大事なことに気付かされました。生徒が一番楽しさを感じるのはゲーム的な楽しさではなく、英語でコミュニケーションが取れた時が一番楽しいという事実です。

私が東京の教員時代に行っていたアクティビティの多くは楽しい活動ではあっても、そのほとんどは意味のあるコミュニケーションではありませんでした。例えば、2024年11月現在アシタのジュギョウで一番多く保存されている「UNOでSVOOの語順を覚える」という活動があります。

UNOのルールでSVOOの語順になるようにカードを出していくというゲームです。この活動は生徒が大好きで、休み時間にもやりたがるほどでした。しかし、このアクティビティでは自分の持っているカードを出して英語を作っていくわけですから、ゲーム的な楽しさはあるけれど、「意味のあるコミュニケーション」とは言えないわけです。もちろんこの活動は語順を覚えることにフォーカスすれば大変面白い活動だと思いますので、使い方次第では大変有用です。

以上のことを踏まえると、さいたま市のカリキュラムは「意味のあるコミュニケーション」を授業内で発生させるという意味で素晴らしいアクティビティを展開していると思いました。

しかし、ここでも私は東京の教員時代のジレンマが思い出されました。

実際、ディベートっぽいやり取りにはなるのですが、割とワンパターンになってしまうという状況も多く見られました。ディベートの型をインプットすることはできたけれど、もっと根本的な英語のインプット量としてはやはり不足しているというのが当時の私の悩みでした。

そしてもう一つさいたま市で教えていて悩んでいたことがあります。毎授業、パフォーマンステストに向けて練習をする訳ですが、当然、教科書も進める必要があり、1時間の授業内でパートが分かれます。一応、さいたま市から提示されているカリキュラムには教科書の内容に沿ってパフォーマンステストが設定されているのですが、それでもやはり教科書パートとパフォーマンステストパートの内容が乖離していると私は感じていました。割り切ってしまえば、それでもいいのですが何とかこの２つのパートを連動させることはできないだろうか。

２つの悩みを一気に解決する方法を私なりに考えてみました。

まずは音読の徹底です。教科書の本文理解をした後はほぼ1時間まるまる音読をして、教科書本文をインプットすることにしました。意味、構造がわかった英文を身体で覚える作業です。幸いさいたま市は英語の時数に余裕がありましたのでギリギリ実施できました。ただ実施の仕方には工夫が必要だと思われます。1時間の音読は気力、体力共に生徒は消耗します。（具体的な実施方法は別のピースで紹介できればと思います。）

そして、音読の次の時間のパフォーマンステスト練習である工夫をします。教科書の内容を基にパフォーマンステストの練習をしてもらうのです。

例えば、パフォーマンステストがどちらの食材が優れているかのディベートで、音読した教科書本文にチョコレートの歴史や効果が書いてあるとします。その場合、パフォーマンステストの練習として「チョコレートvsコーラ」のディベートをペアでやってもらいます。コーラの情報についてはプリントで別途渡しますが、教科書本文の表現がそのまま応用できそうな情報を載せておきます。

いざ、ディベートが始まるとワンパターンだった時のディベートとは展開がかなり異なります。チョコレートについて主張する生徒は教科書本文の表現を使いつつも、そこに自分なりの意見を肉付けしていきます。コーラ側の生徒も即興的に教科書のチョコレートの部分をコーラに置き換えながら、表現していきます。両者の表現には深みが出て、教科書で習ったことが「意味のあるコミュニケーション」として生かされている状況が生まれます。そしてコミュニケーションが取れているから、生徒たちは本当に楽しそうに活動に取り組みます。

もちろん上記のような音読を実施したとしても英語が使えるようになるのに必要なインプット量には到底及びません。ただ、大学生や大人になった生徒が「こうやれば英語が使えるようになるんだ」という道標にはなるのではないかと考えています。

長くなりましたが、私が英語の授業内でアクティビティを取り入れるときに考えるべきことは次の三つです。

何かご意見あれば、コメントしていただけると嬉しいです。皆さんのアクティビティに関する考え方を知りたいです！